1 経営者保証に関するガイドラインについて
そもそも経営者保証に関するガイドラインは、平成26年1月30日から適用されており、経営者の個人保証について、
- (1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
- (2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に、破産をさせずに一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
- (3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援します。その活用実績なども中小企業庁のHPで開示されています。
この愛媛でも、会社が経営者と会社の経理のどんぶり勘定をやめて、財務基盤を強化し、財務状況の適切な開示などの健全経営を目指した場合には保証を解除していただけた例や、債務超過となった会社が廃業しても破産せずに特定調停などでソフトランディングし、同時に経営者の保証債務に関してもこのガイドラインを使って破産を回避できた例なども数多く私自身関与してきましたので、一定程度の実績はでき、地元金融機関の皆様にも広くこの活用が認識されていらっしゃると感じます。
ところで経営者の高齢化に伴う事業承継が待ったなしの状況になっているのは皆さんご存じのとおりですが、事業承継において、後継者が会社の全債務を保証することに二の足を踏んで事業承継が円滑にいかない、という指摘はたびたびなされてきました。
そこでこの経営者保証に関するガイドラインは事業承継の分野の手当が不十分であったので、このたび、事業承継に焦点を当てて、経営者保証に関するガイドラインの特則が令和元年12月24日公表されました。金融庁からも金融機関に対して、営業現場の第一線に周知徹底を図るように要請も出ています。
その内容としては
- ①前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止
- ②後継者との保証契約は、事業承継の阻害要因となり得ることを考慮し、柔軟に判断
- ③前経営者との保証契約の適切な見直し
- ④金融機関における内部規定等の整備や職員への周知徹底による債務者への具体的な説明の必要性
- ⑤事業承継を控える事業者におけるガイドライン要件の充足に向けた主体的な取組みの必要性
となっておりますので、この後①から③を詳細に説明します。
2 前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止
これは金融機関に対して前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないこととしており、例外的に求めることができる限定的な4つの場合の例を挙げています。基本的にはこれ以外の場合には二重保証をとるのは避けられるようになるでしょう。
- ア 前経営者が死亡し、相続確定までの間、亡くなった前経営者の保証を解除せずに後継者から保証を求める場合など、事務手続完了後に前経営者等の保証解除が予定されている中で、一時的に二重徴求となる場合
- イ 前経営者が引退等により経営権・支配権を有しなくなり、本特則第2項(2)に基づいて後継者に経営者保証を求めることが止むを得ないと判断された場合において、法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、当該債権が返済されない場合に法人の債務返済能力を著しく毀損するなど、前経営者に対する保証を解除することが著しく公平性を欠くことを理由として、後継者が前経営者の保証を解除しないことを求めている場合
- ウ 金融支援(主たる債務者にとって有利な条件変更を伴うもの)を実施している先、又は元金等の返済が事実上延滞している先であって、前経営者から後継者への多額の資産等の移転が行われている、又は法人から前経営者と後継者の双方に対し多額の貸付金等の債権が残存しているなどの特段の理由により、当初見込んでいた経営者保証の効果が大きく損なわれるために、前経営者と後継者の双方から保証を求めなければ、金融支援を継続することが困難となる場合
- エ 前経営者、後継者の双方から、専ら自らの事情により保証提供の申し出があり、本特則上の二重徴求の取扱いを十分説明したものの、申し出の意向が変わらない場合(自署・押印された書面の提出を受けるなどにより、対象債権者から要求されたものではないことが必要)
3 後継者との保証契約について
ガイドラインは金融債権者に対して、後継者に対し経営者保証を求めることは事業承継の阻害要因になり得ることから、後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、ガイドラインに即して、保証契約の必要性を改めて検討するとともに、事業承継に与える影響も十分考慮し、慎重に判断することを求めています。
具体的には、経営者保証を求めることにより事業承継が頓挫する可能性や、これによる地域経済の持続的な発展、金融機関自身の経営基盤への影響などを考慮し、ガイドラインの要件の多くを満たしていない場合でも、総合的な判断として経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討することを求めています。
これは保証を求める趣旨が経営への規律を求めることであることから、一律に保証債務を付けるのではなく、ある一定の条件を超える経営悪化となった場合などに効果が発生する停止条件付保証契約、または逆に一定の財務状況が改善した場合には保証が解消される解除条件付保証契約などを検討することなども含みます。
また「経営者保証コーディネーター」という制度が令和2年度から開始する予定であり、登録した専門家(中小企業診断士、税理士、弁護士等)が「事業承継時判断材料チェックシート」に基づき経営状況の確認結果を見える化し、その確認結果を十分に踏まえることともされています。このコーディネーター制度はまだこれから始まるのでなんとも言えないのですが、専門家に経営状態の磨き上げをしてもらい、その確認結果を第三者の目から出すことで、金融機関に保証解除をしてもらうための大きな一助となることが見込まれます。
更に事業承継特別保証制度が令和2年4月から申し込みが始まり、これは信用保証協会が保証する代わり経営者に保証を求めない制度であり、かつ、コーディネーターに確認を受けた場合には大幅に保証料率が下がるという意欲的な制度です。
ただもちろん健全経営をしていることが大前提なので詳細は保証協会にお問い合わせください。
そして後継者が、事業承継時に経営者保証を不要とする政府系金融機関(日本政策金融公庫など)へ借り換えを希望する場合には、その意向を尊重して真摯に対応しなければならない、とされていますので、事業承継時にそれまでの民間金融機関はそのようなことにならないように経営者保証無しで融資継続ができないか真剣に検討することになるでしょう。
4 前経営者との保証契約の適切な見直し
前経営者は、実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性があります。
これがどのような意味を持つかというと、令和2年4月1日からの改正民法の施行により、第三者保証の利用が制限されるため、金融機関が安易に前経営者の保証契約を継続させると法律違反になる可能性がある、ということです。事業承継時に、前経営者が役員でもなく、議決権の過半数を有する株主でも無くなっていれば、金融機関は非常に慎重な対応が求められることになると思います。
5 最後に
いかがでしょうか?事業承継をお考えになっている経営者、後継者はもちろん、事業承継を間近に控える顧客を抱える金融機関にとっても経営者保証に関するガイドラインは民法改正と相まって非常に重要な意味を持つものになると思われます。
しかし、経営者保証に関するガイドラインの認知度に関しては、平成31年2月の中小企業基盤整備機構の調査によっても、中小企業の経営者へ50%に届きませんでした。また県内でもガイドラインを無視した対応をする金融機関の話も聞きます。
この特則は令和2年4月1日から適用されていますので、経営者も金融機関も互いに認識を深めることが必要になってくると思われます。